相続争いを避け、想いを伝える遺言書
最近、終活ブームの影響で「遺言書を書こう」と考える方が増えています。
でも、いざ書こうと思ったとき、何をどのように書けばいいのか悩んでしまう方も多いのではないでしょうか?
そこで遺言書とはどういうものか、具体的な書き方など、遺言書の基礎知識をご紹介します。
伊藤二三(行政書士)
相続争いを避ける遺言書
人はあの世へ旅立つときに、何がしかの財産を遺していきます。その財産を、特定の人が引き継ぐことが相続です。
相続の際に遺言書が無い場合は、相続人全員の話し合いで誰が何を引き継ぐかを決めます。
話し合いですんなりと決まればいいのですが、そうはいかない場合が多くあります。
「相続で揉めて大変だった」という話を耳にされたことも、あるのではないでしょうか。
でも、財産分けの指示が書かれている遺言書があれば、原則として遺言書通りにすればいいので、争いごとを避けることができます。
遺言書の書き方
遺言書は主に、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。
今回は、自分の手で書く「自筆証書遺言」の書き方をご説明します。
遺言書には、誰に、何を相続させる、あるいは遺贈するのかを明確に書いてください。
「相続させる」は配偶者や子どもなど法定相続人へ財産を渡す場合、「遺贈する」は孫や友人など法定相続人以外に渡す場合に使う言葉です。
お世話になった施設などに寄付をする場合も、遺贈になります。
・遺言者の妻 ○○ ○○子(昭和○○年○月○日生)に、○○銀行○○支店の定期預金(口座番号○○○○)を相続させる。
・遺言者の長男 ○○ ○○夫(昭和○○年○月○日生)に、次の不動産を相続させる。
土地の場合は、所在・地番・地目・地積・持分を、建物の場合は、所在・家屋番号・種類・構造・床面積・持分を、登記事項証明書に記載されている通りに書きます。
・遺言者の孫 ○○ ○○美(平成○○年○月○日生)に、次の絵画を遺贈する。
絵画など美術品や骨董品の場合、その物が特定できる情報、作品名・製作者・種類・素材・サイズ・制作年月日などを書きます。
自筆証書遺言は全て手書きが原則ですが、平成31年の民法改正により、財産目録はパソコンで作成されたものも認められるようになりました。
また、銀行口座が記載された通帳の表紙のコピー、不動産の登記事項証明書のコピーを添付してもよくなりました。
ただし、パソコンで作成した財産目録やコピーの資料には、自筆での署名と押印が必要になります。
自筆証書遺言、4つの決まりごと
自筆証書遺言には、自分の手で書くこと以外に、4つ守らなければならないことがあります。
1、頭に「遺言書」と書く
2、遺言書を作成した年月日を書く
遺言書は何回でも書き換えることができ、日付が新しいものが有効になります。
ですので日付は重要で、作成日が特定できるように書いてください。
「吉日」は特定できないので、無効になります。
3、遺言者の名前を書く
フルネームで書いてください。芸名やペンネームを持ってる方で、その名前が誰のことなのか世間に認識されている場合には、本名でなくても大丈夫です。
4、押印をする
認め印で大丈夫ですが、遺言者を確認するためには、実印を押して印鑑証明書も添えておくと確かです。
その他に、書き間違えた場合の修正方法も決まりがあります。
民法で定められている方法で修正しないと無効になりますので、間違えた場合には、別の用紙で書き直した方がいいでしょう。
想いを伝える遺言書
遺言書にはもう1つ大切な役割があります。
それは「遺言者の想いを伝える」ことです。
遺言者が「なぜ、この財産分けの指定をしたのか」という想いを、「付言事項」へ書くことができます。
例えば、「自分の介護を一生懸命にやってくれた子どもに、財産をたくさん渡したい」「ハンディキャップのある子どもが困らないようにしたい」など、自由に想いを綴ることができます。
また、財産分けが薄くなった相続人の気持ちをフォローするためにも重要です。
その他に、残る家族に向けて感謝の言葉や、思い出などを書くこともできます。
付言事項には法的な拘束力はありませんが、相続人が遺言者の想いを知ることによって「遺言書の内容を実現しよう」という気持ちが高くなる効果があります。
遺言書を書くことを特にお勧めする方
相続の発生後、話し合いで財産分けを決める場合、相続人全員が合意の上で遺産分割協議書を作成し、全員の署名と実印での押印、さらに印鑑証明書の添付が必要になります。
しかし、この手続きが難しいことがあります。
例えば、相続人の中に行方が分からない人がいる、海外など遠方に住んでいる人がいる、認知症や精神障害の方がいるなどで、話し合いができない場合です。
また、相続人同士が不仲だったり、日頃顔を合わせることがない配偶者の兄弟姉妹が相続人になるなど、スムーズな話し合いが困難な場合もあります。
こういったケースが予測できる方には、特に遺言書の作成をお勧めします。
まとめ
人が亡くなると、さまざまな手続きや供養のセレモニーがあり、同時に相続手続きを行うことはとても大変です。
でも、遺言書があれば、相続手続きをスムーズに進めることができます。
遺言者の想いを実現し、残った家族の負担を軽減する優れものが遺言書です。