相続で必要な「出生から死亡までの戸籍謄本」の集め方・取り寄せ方

2023年1月8日

身近なご家族がお亡くなりになり、相続手続きをしなければならないときに必要となるのが、戸籍の収集です。今回は、必要な戸籍の集め方・取り寄せ方についての解説です。
ご家族がお亡くなりになり、その方の名義の預貯金、不動産、自動車があるとき、遺産分割協議を行う時、相続税の申告をするときには、戸籍の収集が必要です。

一般の方にはあまり馴染みのない「戸籍」ですが、相続を有利に進め、損しないために、戸籍調査が重要となります。
相続手続きのどのような場面で、どのような戸籍謄本(戸籍全部事項証明書、改製原戸籍など)が必要であるかについて司法書士が解説します。

甲斐 麻莉子(司法書士)

そもそも戸籍とは?

戸籍とは、個人の家族関係を明らかにする市区町村に保管された台帳で、氏名・生年月日・続柄などの個人情報が記載された公文書です。
昭和23年以前の戸籍は、一つの家を単位として編成されていました。昭和23年以降は、戸籍は、一つの夫婦とその子供を単位として、編成されています。
一人の戸籍の記録は、出生から始まり、死亡で終わります。
戸籍謄本は、その方の全ての相続人を明らかにして、その方が亡くなったことを証明する書類ですので、あらゆる相続手続きの場面で必要になります。
相続手続に必要となる戸籍謄本の迅速な収集は、すべての相続手続きを迅速に、かつスムーズに進めるうえで重要です。

戸籍の種類・名称

戸籍にはさまざまな種類があります。役所の窓口で慌てないために、基本的な戸籍の種類や名称を解説します。

① 戸籍(通称:現在戸籍)
戸籍(現在戸籍)とは、現に使用されている戸籍のことです。通常、ただ単に「戸籍」といった場合は、この現在戸籍をさしています。
② 除籍
除籍とは、その戸籍に誰もいなくなった(=外れた)場合の名称です。戸籍から外れる理由としては、他の市区町村に転籍した、結婚をして新しい戸籍が作成された、離婚をしてその戸籍から出て行った、亡くなった等の場合があげられます。なお、同じ戸籍にいるうちの筆頭者が亡くなった場合でも、除籍にはならず、同じ戸籍に一人もいなくなった場合にのみ、除籍となります。
③ 改製原戸籍(通称:はらこせき、かいせいはら)
改製原戸籍は、法令によって戸籍の様式を改められた戸籍のことを言います。具体的には、平成6年の手書きからコンピュータ化の改正と、昭和23年の民法・家族法が大きく変わったことによる改正です。このように改製して新しい制度となる前の元の戸籍のことを「改製原」戸籍といい、結婚や養子縁組にかかわらずに戸籍が変わったことが特徴です。

戸籍証明書の種類・名称

先述の戸籍にも、次のとおり2種類があります。具体的には、「謄本」と、「抄本」の2種類があります。
さきほど解説した「戸籍の種類」と組み合わせて、「現在の戸籍謄本」や「除籍の抄本」と呼びます。

①戸籍全部事項証明書(通称、謄本)
戸籍謄本とは、戸籍の証明書で、その戸籍に記録されているすべての人の記録に関する証明書です。
以前は、戸籍謄本が正式名称でしたが、平成6年の法令で電算化(データ化)された戸籍の証明書は、戸籍全部事項証明書という名前に変わりました。
②戸籍一部事項証明書(通称、抄本)
戸籍謄本に対して、その戸籍に記録されているうち、一部の人の記録に関する証明書は、戸籍一部事項証明書)といいます。

なお、相続の手続きに使う戸籍を収集する際には、すべて戸籍謄本を取得すれば問題ありません。戸籍謄本を見れば、戸籍抄本の情報はすべて記載されているためです。「大(=戸籍謄本)は小(=戸籍抄本)を兼ねる」の関係にありますので、常に戸籍謄本を取得することをお勧めします。

戸籍の附票

戸籍の附票とは、その戸籍に入っている期間の、住所の履歴が記録されたものです。住民票と同じく、住所についての情報を得ることができる書類です。住民票を取得した場合は、現在の住所と、現在の一つ前の住所のみが分かりますが、戸籍の附表を取得した場合には、その本籍地に移ってからの全ての住所の情報が分かります。
住民票の場合は、別の市町村へ引っ越すと、新しい市町村の住民票と元の市町村の住民票の除票が作られます。しかし、戸籍の附票は、本籍地を移さない限り、引っ越した場合でも、同じ戸籍の附票に記録されていきます。

もっとくわしく!

昭和23年の戸籍の改製は、膨大な作業量をともない、すべての戸籍の改製作業が終わったのが昭和40年代といわれています。
したがって、昭和40年頃よりも前に生まれた方の相続手続きのために戸籍を集める場合、昭和23年以前の様式の戸籍を取得する必要が出てくることもあります。

相続手続に必要な戸籍とは?

ここまでは、戸籍の専門用語について説明してきました。「戸籍謄本」「除籍謄本」などの違いについてご理解いただけたかと思います。
戸籍の取得が必要なときは、「亡くなった方の出生から死亡までの全ての戸籍が必要な場合」と、「亡くなったことが確認できる戸籍のみでいい場合」がありますので、どちらに該当するかをよくお確かめの上、戸籍の収集手続きを行ってください。

被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本

お亡くなりになった人(被相続人)の戸籍謄本を相続手続きのために収集する場合、「出生から死亡までの戸籍」が必要な場合がほとんどです。これは、「その方が亡くなったこと」だけではなく、「その方の相続人は誰か」を、戸籍という公文書によって証明する必要があるためです。
被相続人の出生から死亡までの戸籍の全てを取得してはじめて、被相続人の相続関係の全体像を把握して、推定相続人を確定させることができます。

以下の事例を見てみましょう。

被相続人であるAさんは、沖縄で生まれて結婚し、2人の子供が生まれました。その後離婚をし、東京に引っ越して本籍地を動かした後、再婚をしました。その後、亡くなりました。

まず、亡くなった方の相続人になるのは、配偶者・子供であるケースが最も多いかと思います。今回のAさんの場合の法定相続人は、再婚相手の配偶者と、沖縄でもうけた2人の子供です。

再婚相手の配偶者は、亡くなった際の戸籍に記載されますので、「東京の本籍地での戸籍謄本」を取得すれば、相続人として配偶者がいることが分かります。

一方で、沖縄でもうけた2人の子供は、「最初に結婚をしたときから、離婚したとき(又は東京に本籍地を動かしたとき)」の間の戸籍にのみ記載されるので、「東京の本籍地での戸籍謄本」には記載されません。

また、Aさんが最初の結婚前に、婚外子を認知しているようなことも少なくありません。そのため、最初の婚姻より前の時点の戸籍をも確かめる必要があります。

したがって、相続人を確定させるためには、出生死亡までの全ての戸籍を集める必要があります。
被相続人の死亡時点の戸籍から、出生時の戸籍へと遡って取得していくことによって、知らなかった相続人が明らかになり、遺産分割全体に影響を及ぼすこともあります。

相続人全員の現在戸籍

被相続人が亡くなった時点で、生きている人のみが相続人となります。これを証明するために相続人の戸籍謄(抄)本も取得することになります。
相続人となるべき人が、亡くなってしまっている場合には、代襲相続又は数次相続を検討しなければならないことがあります。
相続人となるべき人が、被相続人の死亡よりも先に亡くなっていたか(代襲相続)、後に亡くなっていたか(数次相続)のいずれであっても、亡くなった相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を用意する必要があります。
被相続人と相続人が同じ戸籍にいる場合は、1通の戸籍で十分です。被相続人分と相続人分の2通を取得する必要はありません。

遺言がある場合、必要な戸籍が変わる!

遺言書がある場合は、用意する戸籍謄本の内容が変わります。
遺言は、遺言者の死亡がわかればよく、遺産を受け取る人は遺言書に明記されているので、遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本を集める必要はなく、死亡時の戸籍謄本で十分です。
ただし、遺言者が、遺産になる財産を取得した後、結婚や離婚等で名字が変わっている場合や改名をしている場合は、その変更がわかる戸籍謄本も取得する必要があります。

遺言書に「〇〇に相続させる」と記載されている場合は、遺言者と○○の相続関係がわかる戸籍を用意する必要があります。

戸籍謄本の集め方・取り寄せ方は?

本籍地の市町村の窓口に請求する

相続手続きで、戸籍謄本を収集するときは、本籍地の市町村の窓口で、または郵送によって発行してもらいます。出張所やサービスセンターでも、戸籍謄本を取得できることがあります。
市町村によっては、マイナンバーカードを使い、コンビニで現在戸籍を取得することができます。コンビニで取得した戸籍謄本は、窓口や郵送で市町村に取得したものとは書式や用紙が異なる場合がありますが、相続の手続に問題なく使うことができます。
本籍地とは、その戸籍を特定するための場所のことです。住所とは異なり、現在住んでいない場所にすることもできます。スカイツリーやディズニーランド、皇居等のランドマークに設定することも可能です。

本籍地がわからない方は、住民票を取得することで本籍地を知ることができます。相続人の住民票か被相続人の除票を取得する際に、本籍地と筆頭者の記載をするよう請求すれば、住民票に本籍地と筆頭者が記載されます。

被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得するため、本籍地をたどり、すべての戸籍謄本を取得するまでに相当期間が必要な場合がありますので、相続が開始したら時間に余裕をもって収集しなければなりません。

戸籍謄本を窓口で請求するときの必要書類

戸籍謄本を窓口で取得する際には、以下の書類などが必要になります。
 役所に備え付けの「戸籍交付申請書」
 本人確認書類(運転免許証などの公的身分証明書)
 その他、各市町村が指定する資料等
戸籍謄本の発行手数料は、全国均一で、現在戸籍謄(抄)本が1通450円、除籍及び改製原戸籍の謄(抄)本が1通750円です。

戸籍謄本を郵送で請求するときの必要書類

戸籍謄本を郵送で取得する際には、以下の書類が必要になります。
 戸籍交付申請書(各市町村のホームページからダウンロードできます)
 本人確認書類のコピー
 定額小為替
 返送用封筒+郵便切手

郵送請求の場合には、現金で手続きをすることはできず、郵便局で購入した定額小為替を使って支払いをします。定額小為替とは、ゆうちょ銀行が発行する決まった金額の為替で、手数料を普通郵便で送って決済をすることができます。

その市町村での戸籍が何通になるかは、実際に手続きをするまでわかりません。
返信用封筒の切手は多めに貼り、定額小為替の金額は多めに入れましょう。定額小為替の金額が多かった場合には、おつり分の定額小為替が戸籍と一緒に返送されてきます。
送付するべき書類は市町村ごとに異なる可能性がありますので、あらかじめ電話で確認しましょう。

戸籍謄本を代理人が請求するときの必要書類

市町村の窓口で取得する場合でも、郵送で取得する場合でも、代理人に戸籍謄本を取得してもらうことも可能です。この場合、次の必要書類が追加されます。
 相続人から代理人宛の委任状
 代理人の本人確認書類
 所定の手数料(窓口であれば現金、郵送であれば定額小為替)

委任状は、原則、任意の様式で作成して問題ありませんが、東京都豊島区等の一部の自治体では、自治体の作成した様式の委任状でなければならない市町村もあります。
詳しくは、本籍地の市町村の窓口に電話して確認することをお勧めします。

必要な戸籍をたどる方法は?

どんな相続手続きであっても、亡くなった方(被相続人)が死亡した事実と、その相続人が誰であるのかを公文書である戸籍から調べることは、もっとも重要なことです。
亡くなった方がいた場合、亡くなってから7日以内に死亡届を提出することで、被相続人の最後の戸籍に、死亡の旨が記録されます。また、だれが相続人になるのかは、被相続人の配偶者、子供、両親、祖父母、兄弟姉妹であると法律で決まっています。
そして、預貯金や不動産の手続きをするにあたっては、法律上の相続人であることを、銀行や法務局などの第三者に対して証明しなければなりません。

戸籍の記録の読み方、収集の仕方

一つの戸籍には、大きく分けて二つの記録の枠があります。一つは戸籍事項欄、もう一つは個人事項欄です。戸籍事項欄は、その戸籍の全体についての記録、個人事項欄は、その戸籍に入る人についての記録が記載されています。

戸籍事項欄

戸籍事項欄は、必ず戸籍の1ページ目の最上段にあります。「本籍地」「筆頭者の氏名」のほか、その戸籍を新しく作った原因と日付や、従前の戸籍の本籍地と筆頭者の名前等が記録されています。
戸籍全体についての変更(たとえば、改製や氏の変更等)についても記録されます。

個人事項欄

個人事項欄には、その戸籍にいる個人の情報が記録されます。戸籍の左側の欄にその人の名前(氏名ではありません)と戸籍記録の見出し、右側に、例えば出生、婚姻、死亡などの具体的な記録が記載されます。

まずは、最後の戸籍の戸籍事項欄から、その一つ前の戸籍の情報を探します。

現在の戸籍で最も多いものは平成改製であることが多いと考えられますが、平成改製の場合は、かならず同じ本籍地に改製原戸籍が存在します。

もし、平成改製の記録ではなく、転籍や分籍の場合は、転籍(分籍)前の本籍地(及び筆頭者)が記録されているので、その情報をもとに、市町村の窓口に戸籍の請求をします。

改製原戸籍、除籍の場合も同様で、戸籍事項欄に記載されているその一つ前の戸籍をさかのぼる作業を繰り返して遡ります。

<戸籍事項欄に一つ前の戸籍が記載されていない場合>
戸籍事項欄にかならず一つ前の戸籍の情報が記録されているとは限らず、筆頭者(又は戸主)の個人事項欄にそれ以前の戸籍の情報が記録されている場合もあります。
また、もし被相続人が婚姻や養子縁等でその戸籍に入ってきた場合は、戸籍事項欄には一つ前の戸籍の情報はありません。
この場合は、被相続人の個人事項欄を確認すると、入籍した原因と日付、入籍前の戸籍の本籍地、筆頭者の氏名が記録されているので、この情報をもとに、市町村の窓口に発行を要請をすれば、良いことになります。

戸籍の手書き文字が読めないときの対処法

戦後の新憲法下で誕生した戸籍(いわゆる昭和23年戸籍)以前の戸籍は、すべて役所担当者の手書きで書かれていました。
現在の戸籍はコンピューターの活字で入力されているため、文字が読めないことはありません。
しかし手書き時代の戸籍はいわゆる「ミミズ文字」で書かれていることも多いため、読み解くのが困難な場合もあります。
「読めない戸籍を読み解くコツ」は以下の3点ですので、ぜひ参考になさってください。

① 「壱」「弐」「参」…等の漢数字を理解する。
手書き戸籍の時代には、算用数字ではなく漢数字が使われています。文字が伸びたり狭い範囲に入っているので読みづらいことがありますが、元々の字のイメージがあれば読みやすくなります。
② 使われやすい言葉を理解する。
「地名」や「出生」「入籍」「●男」「●女」、「養子縁組」「婚姻」…等、多く戸籍に使われる言葉を理解することで、あたりをつけながら戸籍を読むことが可能になります。
③ 戸籍を発行した市町村に電話をする。

戸籍を読むことに慣れた専門の司法書士であっても、読み解くことができないような戸籍も存在します。そういった場合でも、戸籍の端っこに数字が印字されており、その番号を発行した市町村に問い合わせることで、読み方を教えてもらうことができるのです。

戸籍収集が複雑となる相続の例

最後に、司法書士がよく経験する、戸籍収集が非常に複雑で、手間と時間がかかるケースをご紹介します。
例えば・・・
・亡くなった方に配偶者、子供がおらず、兄弟や姉妹が相続人になる場合
・外国から日本に帰化をした方がお亡くなりになり、領事館や大使館に対しても戸籍請求に準じた手続きをする必要がある場合
・相続人の中に相続放棄をした人がいて、法定相続の順位が変更になっている場合
・結婚や離婚、養子縁組を繰り返している等、家族関係が複雑な場合
・引っ越しの度に、本籍地を変更している場合
・昭和10年以前に生まれた方が被相続人になる場合

最近の市町村の窓口は、以前と比べて親切に対応してくれることが多くなっています。
窓口で「出生から死亡までの戸籍をとりたい」と伝えると、「相続手続きに必要な戸籍の収集をしている」と伝わり、窓口で発行できる限りの戸籍謄本を発行してくれる市区町村も多くあります。
また、詳しい担当者であれば、その窓口で発行できる戸籍の前の戸籍の請求先を教えてくれることもありますので、まずは市町村窓口に相談するのも一つの方法です。