相続で必要な兄弟姉妹の戸籍謄本を取り寄せる7つの方法

2023年3月10日

相続手続においては、多くの戸籍謄本が必要です。特に重要なのが、お亡くなりになったご家族(被相続人)の「出生から死亡までの戸籍謄本(除籍・改製原戸籍を含む)」ですが、兄弟姉妹が相続人となるときは、兄弟姉妹の戸籍謄本もまた必要書類となります。
兄弟姉妹は、血のつながった親族とはいってもそれほど関係性が濃くない場合もあることから、戸籍謄本の取得をするという際には、赤の他人の戸籍を取得する場合と同様、「第三者請求」という請求方法になります。
決して、無条件で兄弟姉妹の戸籍謄本を取得できるわけではありませんが、請求方法を理解しておけば役所でのやり取りも円滑に進みます。
そこで今回は、兄弟姉妹の戸籍謄本を取得する必要があるケースと、請求方法について解説します。

甲斐 麻莉子(司法書士)

兄弟姉妹の戸籍を取得する必要があるケースとは?

例えば、両親がなくなり、兄弟間で財産を分けるような場合には、兄弟の戸籍謄本を取得する必要があります。
兄弟関係は複雑で、親しく信頼していて同居している場合もあれば、疎遠で何十年も連絡をとっていないこともあるでしょう。
そのため、いざ家族に相続が発生して戸籍収集が必要になった時にお困りになる方も多いのではないでしょうか。
以下のいずれの場合であっても、兄弟姉妹の戸籍が相続手続きに必要になります。あなたに兄弟がいる場合には、兄弟の戸籍収集をしなければならないケースはとても多いのです。

 両親が亡くなり、兄弟姉妹で相続財産を分ける場合
 両親が亡くなり、兄弟姉妹の中に相続放棄をした人がいる場合
 未婚の兄弟姉妹が亡くなり、両親もすでに亡くなっていてあなたが相続人になる場合
 兄弟姉妹に子がいないまま亡くなり、高齢の両親が相続人になったため、手続きを代わりにしてあげる場合
 両親が亡くなった後、半血の兄弟がいることが判明した場合
 両親が養子をとっていたため、血のつながらない兄弟がいる場合

上記のいずれであっても、相続手続きに兄弟の戸籍が必要です。

戸籍を無条件でとれる範囲とは?

まず、兄弟姉妹の戸籍謄本を取り寄せる方法を理解していただくにあたって、そもそも無条件で戸籍をとれる範囲について説明します。
「自分の戸籍を、自分でとることができる」というのが当たり前のことであるように、以下の続柄の範囲の戸籍であれば、委任状などをもらったりしなくても、戸籍謄本を無条件で取得することができます。

• 自分自身の戸籍謄本
• 配偶者(夫または妻)の戸籍謄本
• 直系尊属(両親、祖父母など)の戸籍謄本
• 直系卑属(子、孫など)の戸籍謄本

このことは、戸籍に関する細かいルールを定めた「戸籍法」という法律にも、次のとおり定められています。

戸籍法10条
戸籍に記載されている者(その戸籍から除かれた者を含む。)又はその配偶者、直系尊属若しくは直系卑属は、その戸籍の謄本若しくは抄本又は戸籍に記載した事項に関する証明書(以下「戸籍謄本等」という。)の交付の請求をすることができる。

逆に言うと、これ以外の続柄の人の戸籍は、たとえ血縁関係があったとしても、無条件に取得することはできません。相続手続きにおける権利行使のためなど、正当な理由がある場合に限って取得することができるに過ぎません。
そして、兄弟姉妹の戸籍謄本もまた、正当な理由がある場合にしか取得できない範囲に含まれています。

亡くなった親等の戸籍を入手する方法は次のコラムをご覧ください。

兄弟姉妹の戸籍謄本を無条件で取得する3つの方法

以上のとおり、戸籍謄本を取得するときに、一定範囲の続柄の人の戸籍であれば、特段の理由付けなく、了承を得ずに取得をすることができることをご理解いただけましたでしょうか。
そのため、兄弟姉妹の戸籍謄本が、これらの無条件で取得できる戸籍謄本の範囲に含まれる場合には、兄弟姉妹の戸籍を容易に入手することができます。
そこでまずは、無条件に兄弟姉妹の戸籍謄本を取得することができる場合の請求方法について解説します。

【方法①】自分の現在の戸籍謄本に、兄弟姉妹も記載されているケース

出生した子は、まず親の戸籍に入ることとなります。結婚をしていない場合で転籍等もしていない場合には、1つの戸籍に親子二代の戸籍情報が掲載されていることも少なくありません。
兄弟姉妹が結婚しておらず、あなた自身もまた結婚していない場合には、自分自身の現在の戸籍謄本に、あなたの両親も、そして、兄弟姉妹も記載されているのが原則なのです。
この場合には、自分の現在戸籍謄本を取得する際に、「全部事項証明(=自分以外の同じ戸籍の人の人も記載する)」を請求すれば、同時に兄弟姉妹の戸籍も取得でき、そのまま相続手続きに用いることが可能です。

【方法②】自分の過去の戸籍謄本に、兄弟姉妹も記載されているケース

ケース①と同様に、自分の戸籍を取得して兄弟の戸籍も取得する方法です。
あなたが既に結婚をして、ご両親の戸籍を抜けている場合には、あなたの現在戸籍は、あなた又は配偶者が筆頭者です。
しかし兄弟姉妹が結婚をしていなければ、あなたの婚姻前の戸籍謄本(=あなたの両親が筆頭者の戸籍謄本)に、兄弟はまだ記載されている可能性が大きいのです。
そして、自分の過去の戸籍謄本も、自分の戸籍であることに変わりないので、無条件に取得することができます。そこにまだ兄弟姉妹の戸籍情報が残っている場合には、兄弟姉妹の戸籍謄本を入手することができるというわけです。
ただし、あなたが結婚によって戸籍を抜けた後でご両親が転籍をされ、あなたの名前が除籍謄本から消えていたり、戸籍の電子化によって再編成されてしまっていた場合には、この方法が難しい場合もあります。

【方法③】両親の現在の戸籍謄本に、兄弟姉妹も記載されているケース

さきほど解説したとおり、ご両親の戸籍を取得することは、委任状がなくても無条件に可能です。
そのため、あなた自身が既にご両親の戸籍を抜けていたとしても、兄弟姉妹がまだその戸籍に残っている場合、ご両親の戸籍を取得する方法によって、兄弟姉妹の戸籍情報を取得することができます。
ただし、ご両親の転籍などによって、ご両親の戸籍にあなたの情報が載っていない場合、親子関係を証明する戸籍をあわせて提出する必要があります。
親子関係を証明する戸籍の例のひとつに、あなたの現在の戸籍謄本があります。何度転籍を繰り返していたとしても、現在戸籍には【父】【母】の記録がありますから、氏名の一致により親子関係が証明されるのです。
もちろんあなたとご両親が一緒に記載されている除籍謄本(出生から転籍までのもの)もこの例に該当します。

兄弟姉妹の戸籍謄本を、親族に依頼して取得する3つの方法

次に、自分自身の戸籍や親の戸籍などを取得することで、無条件に兄弟姉妹の戸籍謄本を取り寄せることができない場合には、どのような請求方法によって兄弟姉妹の戸籍を入手したらよいのでしょうか。
例えば、既に兄弟姉妹が結婚をして、両親の戸籍から抜けてしまっている場合、さきほど解説した方法では兄弟姉妹の戸籍を取得することができません。
そこで次に、親族に依頼することによって兄弟姉妹の戸籍謄本を取得する方法について解説します。

【方法④】直系尊属(両親・祖父母等)に依頼する方法

直系尊属・直系卑属の戸籍謄本は、了承無く取得することができると解説しました。直系尊属とは両親・祖父母など、直系卑属とは子・孫などのことをいいます。
あなたにとって兄弟姉妹は、直系尊属でも直系卑属でもありませんが、あなたの両親、祖父母などにとって、あなたの兄弟姉妹は「直系卑属」にあたります。
そのため、両親・祖父母などに依頼をして、兄弟姉妹の戸籍謄本を取り寄せてもらうことができます。

【方法⑤】甥・姪に依頼する方法

同様に、兄弟姉妹の子である甥・姪にとって、兄弟姉妹は「自分の親」、つまり、直系尊属にあたります。
そのため、甥・姪であれば、あなたからみた兄弟姉妹の戸籍謄本を取得することができます。

【方法⑥】兄弟姉妹自身から委任状を取得する方法

最後に、ご本人の委任状があれば、親族・血縁関係がなくても、戸籍謄本を取得することができます。そのため、兄弟姉妹自身から委任状をもらうことができれば、兄弟姉妹の戸籍謄本を問題なく取り寄せることができます。
戸籍謄本を取得するための委任状には、次の事項を記載します。あわせて、請求の際には、受任者であるあなたの公的な身分証明書(免許証・パスポートなど)を持参する必要があります。

• 委任状作成日
• 委任者・受任者の住所・氏名
• 委任者の押印
• 委任事項(「戸籍謄本の請求に関する一切の事項」などとすることが一般的です。)
ただし、相続手続きを進めなければならないことはやまやまだけれども、遺産分割の方法・割合などに争いがあり「争続」となってしまっているケースでは、兄弟姉妹自身の委任状をもらえないでしょう。

【方法⑦】正当な利用目的を証明して取得する方法

親族が協力してくれず、兄弟姉妹自身の協力をとりつけることもできなかった場合の最終手段として、正当な利用目的を証明して、兄弟姉妹の戸籍謄本を請求する方法について解説します。
相続手続きにおいて、兄弟姉妹の戸籍謄本を収集しなければならないケースは少なくありません。例えば、次の例をご覧ください。


たとえば・・・
• 「相続人が誰か」を確定するため、兄弟姉妹の戸籍謄本が必要
• 両親がなくなり、相続登記(相続不動産の名義変更)のため、兄弟姉妹の戸籍謄本が必要
• 相続した預貯金口座の解約のため、兄弟姉妹の戸籍謄本が必要


しかし、ここで解説する戸籍謄本の請求方法のために、「兄弟姉妹の戸籍謄本を入手する必要性」とは、「相続だから必要」といった程度のものではなく、より具体的な説明が求められます。
例えば、「両親のいずれかが亡くなり、兄弟とあなたは共に相続人である。不動産の名義変更の手続きのため、戸籍謄本が必要である」等が具体的な説明に該当します。

 被相続人が死亡したことを示す資料
 自身が法定相続人であることを示す資料
(兄弟姉妹の戸籍を取得する必要性を記載した書面)

「被相続人が死亡したことを示す資料」、「自身が法定相続人であることを示す資料」については、自分の現在・過去の戸籍謄本(除籍・改製原戸籍を含む)で証明することとなります。この場合の戸籍は、自分の戸籍や親の戸籍ですので、正当な理由を証明しなくても準備できます。

最重要なのは、「兄弟姉妹の戸籍を取得する必要性を記載した書面」ですが、説得的に記載するためには、次の事項については具体的に記載することがお勧めです。相続関係図を作成して添付すると、よりわかりやすく説明できます。

 被相続人の氏名
 被相続人の死亡日
 入手した兄弟姉妹の戸籍の提出先

戸籍の記載などから、通常であれば相続人であるなどの利害関係は明らかですが、より丁寧に記載する請求書の記載例(書式・ひな形)を示しておきますので、参考にしてみてください。

記載例

私、相続太郎は、兄弟姉妹である相続花子の戸籍謄本を請求します。その理由は、次のとおりです。
私の父である相続一郎が、平成○年○月○日に死亡しました。現在、相続財産の調査が終了し、遺産分割協議を行う予定ですので、相続人の範囲を確定するために、相続花子の戸籍謄本の入手が必要です。
相続財産には、不動産(東京都中央区銀座XX-X-X所在の土地・建物)があり、遺産分割協議が終了した後の相続登記の際に、中央法務局へ提出するための必要書類として、相続花子の戸籍謄本が必要です。
相続財産には、被相続人名義の預貯金(XX銀行 銀座支店 普通 XXXXXXX)が存在しており、その解約、払い戻しの際に、XX銀行へ提出するための必要書類として、相続花子の戸籍謄本が必要です。

上記は一例であり、実際には市町村役場の窓口や電話で、記載方法や必要となる資料の相談をすることが可能です。代襲相続、数次相続、相続放棄が発生している場合には、より広範囲な資料や理由が必要となることもありますので、司法書士・弁護士等の専門家にご相談ください。