相続した不動産の登記識別情報(昔の権利証)を紛失したときの対応

不動産の登記識別情報(昔の権利証)は、不動産の権利者であると公的に証明する情報です。 昔は、権利証としてB5サイズの厚紙に包まれた和紙に、登記官の押印がされたものがありました。
現在は、登記識別情報として12桁のパスワードが通知されており、不動産の権利証はあらたに発行されていません。
権利証や登記識別情報はいずれにしても、不動産を売却したり、不動産を担保にお金を借りる際に必要となる重要な書類ですので、盗まれることがないよう大切に保管する必要があります。
しかし、不動産の売買とは滅多にあるものではありません。個人の人にとっては、何十年も前に渡された重要書類ですから、いざ売却をするときに紛失していることに気がついた、ということも珍しくないでしょう。
相続の相談をお受けしていると、故人の不動産の権利証(登記識別情報)が見つからないから、遺産分割や相続登記などの諸手続きが進められないと考えている方も多く、相続不動産の名義変更を諦めてしまう方も多いのです。

そこで今回は、権利証や登記識別情報が見つからない場合において、相続手続きやその後の不動産活用を進める方法をご紹介します。

甲斐 麻莉子(司法書士)

不動産の権利証とは?

まずは不動産の権利証とはどのようなものかを説明します。
よく、ドラマや小説で、「借金のカタに権利証を取り上げる」という場面があります。権利証や登記識別情報はそれだけ重要な書類です。しかし、権利証を持っているだけで不動産所有者とみなされることはなく、他にも印鑑証明書や実印がなければ、不動産の名義を変えることはできません。

不動産の権利証とは、ある不動産についての所有権等の権利の登記がされたことを証明する重要な書類です。不動産売却や、住宅ローン借り換えなどの際に、不動産の権利証を使います。

もっとくわしく!

不動産の権利証は、正式名称を「登記済証」といいます。
「登記済権利証」「権利証」、「権利書」等は、いずれも通称ですが、広く使われる言葉です。B5サイズの厚紙に、和紙が何冊か束になり、登記を審査した登記官の印鑑が「登記済」と押されています。
一般的には、「登記済権利証」と記載された表紙で製本されていて、権利証の所有者や不動産の所在地、登記をおこなった司法書士の名前も記載されています。

戸建て住宅の建売購入など、土地と建物を一括して取得したときは、双方の二つの権利証が1部にまとまっていることが一般的です。どの不動産の、何の権利を証明する権利証であるかは、中身をよく見て判断することが大切です。
不動産の権利証には、次のような情報が記載されています。
• 権利を取得する原因(売買や贈与)とその日付
• 権利を取得した人の住所氏名
• 権利を取得した不動産の情報(所在地、地番、建築年月日等)

相続登記で、不動産の権利証が必要なケース、不要なケース

不動産の権利証は、不動産の所有権を示す非常に大事な書類ですが、相続に関する登記のときには、不動産の権利証が必要な場合と不要な場合があります。

相続の不動産手続きで、権利証が必要な場合と不要な場合は以下の通りです。

権利証(登記識別情報)が不要な場合
① 相続人が、法定相続分や遺産分割協議によって不動産を取得するケース
② 相続人が、「相続させる」旨の遺言で不動産を取得するケース

権利証(登記識別情報)が必要な場合
① 相続人が「遺贈」や「死因贈与契約」によって不動産を取得するケース
② 相続人以外が、「相続させる」旨の遺言で不動産を取得するケース
③ 相続人以外が、「遺贈」や「死因贈与契約」によって不動産を取得するケース

相続人であるかと、遺産である不動産を取得した法律上の原因によって、権利証(登記識別情報)が手続きに必要か否かが異なります。
相続不動産に関連する手続きで権利証が必要になることは、そう多くはありません。
相続登記の際、原則として権利証は不要と思っていいでしょう。

上記の一覧を見て頂ければわかるとおり、家族で遺産分割協議をしたような相続登記では、不動産の権利証は紛失していても問題ありません。

しかし、「相続人以外が相続不動産を取得するケース」や、「遺贈、死因贈与、生前に売却していた不動産の登記手続きをするケース」では、登記権利証(登記権利証)を法務局に提出する必要があり、紛失している際には特別な手続きを経ることが必要です。

不動産の権利証を紛失してしまったら?

権利証が重要書類であることは、みなさんご存じです。
しかし、「50年前に父が自宅を購入した際に渡された権利証」となると、なかなかどこにしまったか思い出せないことがあります。
引っ越しをした際に紛失した可能性や、家の中のどこかにはあるはず・・・ということも珍しくありません。
地主さんや中小企業オーナーの方の場合では、権利証が沢山ありすぎて混乱したり、金庫が複数あって探せないこともあります。

不動産の権利証を紛失してしまって手元にないという場合、最終的には、不動産の権利証が手元になくても、その人が不動産の登記名義人自身であることが証明できれば、登記手続きを進められます。

新しい権利証(登記識別情報)について(法改正)

2004年の不動産登記法改正により、これまでの古い紙ベースの不動産の権利証から、オンライン手続きに対応した新しい形態に改められることとなりました。それが「登記識別情報」です。
登記識別情報は、12桁の英字・数字の組み合わせによるパスワードからなり、法務局から発行されたA4の紙の下部分に、目隠しつきで発行されます。
登記識別情報は、権利証と同様、相続において不動産を取得した人にだけ交付されます。
また、複数の相続人が法定相続分に従って相続した場合には、相続登記の申請人となった人(または司法書士に委任をした人)のみに対して発行されます。

登記識別情報はいわば「家の権利のパスワード」です。他人に知られてしまうと、相続した不動産を第三者に勝手に売却されてしまう危険がありますので、家族であっても軽々に伝えてはいけません。
登記識別情報の記載されている部分には目隠処理がされています。目隠しが外されている場合には、第三者に登記識別情報を盗まれた可能性があると考えなくてはいけません。
第三者に盗み見られることのないよう、目隠処理はそのままはがさずに、大切に保管してください。
新しい権利証として登記識別情報が活用されるようになった後も、従来の形式の不動産の権利証が無効となるわけではありません。まだお手元にある場合は、大切に保管してください。
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所有権の登記には、登記識別情報だけでなく、実印や印鑑証明書が必要なため、登記識別情報だけわかったとしても、ただちに土地が盗み取られるというわけではありません。ただし、実印と印鑑証明書の保管にも不備がある場合には、知らないうちに不動産売却を進められてしまう可能性があります。
登記識別情報を紛失してしまったときのために、法務局に申し出ることで不正登記防止申出制度や登記識別情報の失効制度を利用することができます(司法書士が代理して行うことができます。)。

新しい権利証(登記識別情報)も紛失してしまったら?

新しい権利証(登記識別情報)は数字とローマ字の羅列ですので、その情報を覚えていれば、必ずしも権利証の書面自体がなくなったとしても、登記申請をすることができます。また、登記手続きは、インターネット上でも行うことができます。
しかし、相続登記をしたことによって登記識別情報も既に紛失してしまって手元になかったり、お亡くなりになった方(被相続人)がどこに保管しているか発見することができなかったりする場合、その後の不動産に関する所有権移転の手続きには、特別な対応が必要になります。
どのように対応したらよいでしょうか。この場合、次の3つの対処法があります。

司法書士が本人確認情報を作成する

まず第一番目の方法は、司法書士が「本人確認情報」を作成する方法です。この書類を法務局に提出することで、権利証や登記識別情報の代わりにします。
本来、不動産の権利証という重要な書類は、本人が持っているのが当然です。しかし、権利証がなかったとしても、司法書士と直接面談をし、本人に間違いないと証明する書類を作成することで、不動産登記手続きが可能になるのです。
司法書士との面談の際には、運転免許証やマイナンバーカード、印鑑証明書等の原本、戸籍謄本等を提出して、氏名や住所、権利証をなくした経緯を確認します。
不動産の取引は金額も大きいため、場合によっては干支を聞いたり、家族構成に矛盾がないか、話している様子に不信な点がないか等を厳しくチェックすることもあります。
以上のように、司法書士が本人性を担保することで、法務局が登記に応じてくれることとなっているのが「本人確認情報」です。「本人確認情報」の作成代として、5万円~15万円程度の司法書士費用がかかります。

事前通知の制度を利用する

事前通知制度とは、権利証又は登記識別情報を添付せずに登記申請を行った際に、所有権登記名義人本人の意思を確認するために、法務局から申請人に対して、郵便で意思確認を行う手続きです。
その通知に対して、通知書の発送から2週間以内に、法務局に間違いない旨の郵送申出があれば、その登記申請は処理されます。2週間以内に申出がない場合には、意思がないものとして登記は却下されてしまいます。
法務局からの発送は、登記申請がされてすぐにされる場合と、登記の審査がある程度進んでからされる場合があり、法務局によって異なりますので、注意が必要です。
司法書士による本人確認情報と比べると、特別な手数料はかかりませんが、郵便に時間がかかったり、登記申請の時点では不確実な要素ができてしまうため、利用できる登記手続きが限定されます。

公証人に本人確認してもらう

上記の他に、公証役場に出向いて、登記申請書や登記申請の委任状に、「確かに本人が署名しました」という認証文を公証人に付与してもらうことで、権利証の代わりとすることができます。
司法書士と面談をする場合と同じく、身分証を提出して、本人確認を行います。
資格者代理人の本人確認情報と比べると、手数料が数千円と安く済みますが、事前に公証役場の予約をして、実際に公証役場へ出向くという手間がかかります。
不動産売買の決済の当日に権利証を忘れたような場合には使えませんのでご注意ください。