自筆証書遺言と公正証書遺言 比べてみると

2024年6月14日

「遺言書を書こう」と決めた時に、まず考えることは「どういう方式の遺言書にするか」ではないでしょうか?

遺言書にはいくつか方式がありますが、主に作成されているのが「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」です。

今回は、それぞれの特徴とメリット、デメリットを具体的に解説します。

伊藤二三(行政書士)

自筆証書遺言の特徴

自筆証書遺言は、その名の通り「自分の手で書く」遺言書です。

民法の第968条1項に、自筆証書遺言についての決まりごとがあります。
「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」

同条の2項に、パソコンで作成した財産目録やコピーした資料には署名と押印をすること、そして3項には、書き間違えた場合の修正方法があります。

決まりごとはこれだけで、遺言を書く用紙や筆記用具などは指定されていません。

ですので「遺言書を書こう!」と思い立ったら、いつでも、どこででも作成することができますし、費用もかかりません。

なんと言っても手軽に作成できることが、自筆証書遺言の特徴です。

自筆証書遺言のデメリット(1)

自筆証書遺言で悩ましいのが、保管方法です。

遺言者の死後、相続人に発見してもらわなければ、想いを込めて作成した遺言書が無駄になってしまいます。

かといって、保管場所をオープンにし過ぎると、遺言書の内容が気に入らない相続人が、その内容を改ざんしたり、破棄する恐れもあり得ることです。

相続人の中で信頼できる数名に、保管場所を伝えておくのが賢明かと思われます。

自筆証書遺言のデメリット(2)

自筆証書遺言にはもう1つ、家庭裁判所へ申し立てをして「検認」という手続きを経ないと遺言書の内容が実現できない、というデメリットがあります。

検認は、その時点で遺言書が存在することを証明し、偽造・変造を防止するための手続きです。

また、自筆証書遺言の要件が整っているかも確認され、問題が無ければ「検認済証明書」が発行されます。

検認の手続きをするためには、遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本などの書類を用意し、指定された期日に家庭裁判所へ出向くなど、相続人に負担がかかります。

しかし、亡くなった方の口座を解約したり不動産の名義変更をする際、自筆証書遺言には検認済証明書の添付が必要ですので、やらなければならない手続きです。

法務局での保管制度

この2つのデメリットの対策として、令和2年から始まった「法務局における自筆証書遺言の保管制度」を利用する方法があります。

法務局で預かってもらうので保管場所に悩むことはありませんし、申請時に必要書類を提出し、遺言書の要件もチェックされるので検認の手続きも不要になります。

手数料は3,900円と、手ごろな金額です。

公正証書遺言とは

公正証書遺言は、法律の専門家の中でもプロ中のプロと言われる「公証人」が作成する、証明力が高い遺言書です。
遺言書を作成する際に重要なのは「遺言者の意思に基づいて作成されたか」です。

自筆証書遺言では、遺言者の意思能力に疑問を持たれて争われることがあります。

しかし、公正証書遺言でしたら公証人が意思能力を証明し、さらに作成時には証人2名も立ち会って確認しますので、争いになることはほとんどありません。

公正証書遺言を作成するには、遺言の内容を書いた原案、遺言者本人及び相続人との関係を確認できる書類、財産状況が分かる書類などを用意して、公証人と打ち合わせをします。

遺言者自身で打ち合わせをすることが困難な場合は、司法書士や行政書士などに依頼することも可能です。

公証役場一覧

公正証書遺言のメリット

公正証書遺言は原本を公証役場で保管し、さらにデータ化もされるので、紛失した場合には再発行してもらえます。

また遺言者の死亡後、相続人が公証役場へ問い合わせて再発行してもらうことも可能です。

自筆証書遺言で必要な検認手続きも不要ですので、遺言の内容をすぐに実現できます。

他に、意思能力はあるが身体的な障害で文字を書くことができない方でも、公証人が確認をして遺言書を作成できます。

また、公証役場まで出向くことが困難な方の場合、公証人が遺言者の自宅、病院、施設などへ出張し作成してもらうことも可能です。

ただしその場合は、出張費や交通費などが加算されます。

公正証書遺言のデメリット

デメリットは、遺言書作成費用が高いことです。

公正証書遺言の作成費は、遺言に記載する財産額から算定されます。
財産額は、預貯金でしたら遺言書作成時の残高、不動産は固定資産税の評価額で、それらの合計金額です。

例えば、一戸建ての不動産とそこそこの預貯金をお持ちの方でしたら、作成費は6万円~10万円くらいになると考えられます。

さらに、作成時の証人を公証役場に依頼した場合、下準備を専門家に依頼した場合には、その報酬も必要です。

まとめ

自筆証書遺言と公正証書遺言の効力は同じで、作成した日付が新しい遺言書が有効になります。

今後、財産状況や財産分けのお気持ちが変わりそうでしたら自筆証書遺言を、ある程度固まったら公正証書遺言を作成されるのもいいと思います。

どちらの方式の遺言書でも、煩雑な相続手続きを軽減してくれますので、残った家族から感謝されることは間違いありません。

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