農地の相続の留意点!農業する人、しない人

2023年11月29日

相続財産に農地があったら、要注意です。土地という資産でありながら、農地法という法律があって、自由に取引できないのです。農地を相続するときの留意点について解説します。

菅原道明(行政書士)

農地は守られている

農地は食糧自給という点で大きな役割を果たします。国民の食生活を安定させるため、規制なく自由に売買できないように農地法という法律で守られているのです。それを管理するのが市町村にある農業委員会です。農地を宅地等に変更することを転用といいますが、転用や売買する際には農業委員会の許可が必要になります。合理的な理由がなければ、転用も売買も許可されません。

農地法の規制

農地法の規制は3つあります。
 権利移動
 転用
 転用目的権利移動

権利移動は、農地を農地のまま権利を取得することです。これは売買だけでなく貸借も含まれます。農地として適正に管理することを目的とするため、受け手も誰でもいいというわけではありません。農地の取得には一定の農業者としての要件がありますが、相続についての制限はなく、誰でも農地を取得できるようになっています。

転用は農地を農地以外に利用することです。畑だったところを、造成して住宅を建てる、あるいは駐車場にするという場合には、転用の許可が必要です。転用の場合は都市計画法、農振法なども関係することがあります。

転用目的権利移動は、転用して権利移動する場合です。農地以外の土地になるので、受け手は農業者である必要はありません。

農業をする人

農業をする人が農地を相続する場合は、引き続き農地を耕作することができるので特に問題はありません。
他の不動産と同様に、法務局において相続登記して所有権移転すれば、所有者となります。

他の資産と違いは、農地の場合は農地の取得を農業委員会に届出する必要があることです。
原則として、10カ月以内に届出しなければなりません。10万円以下の過料に処されるとありますので、注意が必要です。
通常は相続登記があると、農業委員会から届出の案内がありますので、それからでも間に合います。

農業をしない人

農業をしない人の場合は、相続で農地を取得した後に農地をどうするかを考える必要があります。農業する人と同様に、相続登記をして、農業委員会に届出します。その後、農地として売る・貸す、転用する、を選択します。

農地として売る・貸す

農地として売る・貸す場合は、受け手を見つけ、農業委員会に許可申請を行います。
受け手も誰でもいいわけではなく、農地を適正に管理するための一定の要件があります。農業委員会が斡旋してくれる場合もあります。

転用する

転用する場合は、自分で利用することもそのまま誰かに売ることも可能です。
農地から宅地等にしてしまえば、農地法は適用されません。農地の場合は土地改良区の申請も必要になる場合もあります。
土地改良区というのは土地改良事業を行うところで、農業用排水の整備、管理などの費用を組合員で負担します。施設整備などの経費は長期間で負担することから、土地改良区の除外をするには、一定の費用負担が生じる場合があります。

転用での注意点は、農地法だけでなく農振法が関係する場合もあります。
農振法が定める農用地区域内の農地については、この農振除外の手続きが必要になります。これは許可申請とは違い、農業振興計画の変更という手続きになるため、相当の期間を要します。
この手続きを終えてから、転用の手続きになりますので、期間に余裕をもって手続する必要があります。

農地をめぐる昨今の事情

一昔前までは、農地は貴重な財産のひとつでした。米価が高く、買いたい人も、借りたい人もたくさんいて、銀行の担保としても評価が高い資産でした。しかし、ここ最近では農業の担い手は減り、農地の価値は下がっています。売っても期待していた金額からほど遠いのが実情です。
売値についてはバブル頃を知っている所有者もまだ多くいるため、売買契約が難しいということもあります。また、貸したくても、借り手が見つからないということもあります。中山間地や小区画の農地などの条件の悪い農地は借り手がつかず、そのまま耕作放棄地になることもあります。耕作放棄地は農地としての問題だけでなく、生活環境にも大きく影響します。こうした農地をめぐるさまざまな問題は、年々深刻な状況になっています。

まとめ

農地の相続についての留意点として、解説しました。農地の相続の手続きについては、農業委員会の届出がひとつ重要です。農業しない人にとっては、はじめて聞く言葉ばかりだったでしょう。
相続した後の農地の利用について十分な検討が必要になります。