不動産の相続税が払えないときの売却も含めた資金準備対処法4選
相続によって、相続税が発生する場合、相続財産が預貯金であれば、納税の心配は少ないです。ところが相続財産の内訳が預貯金は少なく、不動産などの流動性の低い相続財産が多い場合、納税資金に困窮することも考えられます。
相続税は金銭で一時に納付するのが原則ですが、一定の要件を満たせば、他の税目と違って延納、物納が制度的に認められています。また、納税の方法としては、金融機関による融資や不動産を売却して納税する方法もあります。
この記事では、延納や物納、金融機関からの融資や不動産の売却で納税資金を用意する方法のそれぞれのメリット・デメリットについてまとめました。
井手 昭仁(ファイナンシャルプランナー)
分割で納める延納
相続税は金銭で一時に納付するのが原則ですが、金銭納付が困難な事由がある場合には、一定の要件のもとで年賦で払うことが可能になります。
延納とは
延納とは、納税者の申請により、納付困難な金額を限度として担保を提供することにより、相続税を年賦で払う制度をいいます。
No.4211 相続税の延納|国税庁 (nta.go.jp)
延納を利用するには、下記の要件をすべて満たしたうえで、担保の提供が必要です。
【要件】
- 相続税額が10万円を超えること
- 金銭で納付することに困難な事由があり、その金額の範囲内であること
- 延納税額及び利子税の額の担保を提供すること(延納税額100万円以内で延納期間が3年以下であれば不要)
- 延納申請期限までに延納申請書に担保提供関係書類を添付して提出すること
【担保】
担保として提供できる財産の種類は以下のものです。
- 国債及び地方債
- 社債その他の有価証券で税務署長が認めるもの
- 土地
- 建物、立木、登記される船舶などで保険に附したもの
- 鉄道財団、工場財団など
- 税務署長が認める保証人の保証
延納のメリット
延納のメリットは、金銭で一時に納付せずに、延納期間である5年から最大20年の年賦での納付ができることです。(延納の期間は相続財産の不動産の占める割合等によって区分されます。)
延納のデメリット
延納のデメリットとしては以下が挙げられます。
- 担保が必要なこと
- 利子税がかかること
- 審査によっては利用ができないなど不確実な要素があること
財産で納める物納
相続税は金銭で一時に納付するのが原則ですが、それが困難な場合、要件を満たせば延納による納付が可能です。その延納でも困難な場合、一定の相続財産による物納が認められています。
物納とは
物納とは、延納によっても金銭で納付することが困難な事由があると認められる場合に、納税者の申請により、納付困難な金額を限度として、相続財産により相続税を納付する方法です。
No.4214 相続税の物納|国税庁 (nta.go.jp)
なお、物納には、以下のように財産による順位があり、財産が日本国内にあるものに限られます。
【第1順位】 | 1.不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等 2.不動産及び上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの |
【第2順位】 | 3.非上場株式等 4.非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの |
【第3順位】 | 5.動産 |
物納のメリット
物納は、現金を用意しなくても相続税を納付することが可能なところがメリットといえます。
物納のデメリット
物納のデメリットは以下のとおりです。
- せっかく相続した固有の財産を失う
- 利子税がかかる
- 審査によっては許可が下りず適用できないなどの不確実性が伴う
また、相続財産は相続税評価額(小規模宅地等の評価減の特例を受けていれば、特例適用後の金額)で収納されます。一般的に時価よりも相続税評価額の方が価額は低い傾向にあるので、その点もデメリットとなります。
金融機関からの融資
相続税の納税資金を準備する方法としては、金融機関からの融資を受けるという方法もあります。金融機関では不動産担保ローンなどを活用することにより、相続税の納税資金として融資する商品などもあります。
融資のメリット
金融機関からの融資を受けるメリットは、審査により一概に言えませんが、延納などに比べると一般的には利率が安いことです。また、延納・物納などと違って、申請など煩雑な手続きが不要なこともメリットの一つです。
融資のデメリット
融資による納税資金の準備のデメリットは利息が発生することです。利率については融資を受ける人の属性や信用力によっても違ってきます。
また、融資には、無担保無保証のものもありますが、一般的には担保や保証人が必要になる可能性が高いです。
なお、融資は誰でも受けられるというわけではなく、審査によっては受けられないこともあり、不確実性もデメリットの一つです。
家を売却して納税
相続税の納税資金を用意するうえで、自宅などのように住んでいる不動産でなければ、その不動産を売却して資金を用意することも可能です。
居住用や貸付用ではない不動産は、維持するには維持費用もかかります。また、売却価格によっては課税の心配もありますが、相続して空き家となっている不動産などは、一定要件のもと特別控除などの特例もあります。
売却のメリット
不動産を売却して現金化するメリットは煩雑な手続きがないことが挙げられます。また、延納や物納、融資を受ける場合と違って審査などがないこともメリットの一つです。
売却のデメリット
一方でデメリットとしては相手が見つからない場合があります。不動産が売れるには立地や物件の状態、希望の売却価格や需要といった様々な要因に影響されるため、売りには出していても成約しないこともあります。また、売れた場合には確定申告の手続きや売却価格が当初の購入金額を超えている場合などは所得税・住民税の納税が必要なこともあります。
(売却が相続開始から3年以内であれば、相続税の一部が取得費に加算される特例の適用を受けることができます。)
まとめ
相続税の申告と納付は、相続を知った日から10ヶ月以内という非常にタイトなスケジュールです。納税資金がない場合、延納や物納などで納付するにしても、金融機関からの融資、不動産の売却などで納税資金を準備するにしても一定の準備期間は必要です。そのため、できる限り早めに準備しておくのが肝要です。
例えば、不動産を売却して資金を用意することを想定しているのであれば、事前に査定をしておくと、不動産の需要と相場を把握できるので、計画が立てやすくなります。
納付期限前にあわてることがないよう、しっかり計画を立てて準備しておきましょう。