遺産分割協議と成年後見制度

2023年3月8日

この話し合いが「遺産分割協議」です。

相続発生後、遺言書が無い場合は相続人全員で「亡くなった方の財産を、どのように分けるか」の話し合いを行います。

遺産分割協議で合意した内容を記載し、相続人全員が署名と押印をした書類を持って、銀行などで相続の手続きを行います。

しかし、相続人の中に認知症などで話し合いに参加できない人がいる場合は、どうしたらいいのでしょうか?

超高齢社会の日本では、80代、90代の方が相続人になることも多いにあり得ることで、判断能力が問われるケースも増えてます。

そのような場合に必要なるのが「成年後見人」です。

そこで今回は、成年後見制度の概要や利用方法をご紹介します。

伊藤二三(行政書士)

成年後見人とは

認知症や精神障害で判断能力が低下し、自分で財産管理やさまざまな手続きができない場合、本人に代わってそれらの行為をする人が成年後見人です。

成年後見制度は、本人の判断能力の低下の程度によって3種類あります。

判断能力がほとんど無い方が利用するのが「後見」、日常生活は一人でできても重要な法律行為は難しい方が利用できるのが「保佐」、判断能力の低下が軽度な方が利用する制度が「補助」です。

それぞれの制度で支援する人を「後見人」「保佐人」「補助人」と呼びます。

後見人には、本人に代わって全ての法律行為を行うことができる「包括代理権」が与えられますが、保佐人と補助人は、本人ができないことだけを支援するので、権限が限定されています。

成年後見人の役割(1)

成年後見人の使命は、本人が望む生活がなるべくできるように支援をすることで、役割が2つあります。

1つは「財産管理」です。

預貯金は成年後見人が管理できるように金融機関に届け出をして、入出金のチェックや必要な支払いを行います。

本人が不動産を持っている場合は、その不動産の管理も成年後見人の役割です。

また、確定申告や納税も成年後見人が行います。

そして相続が発生した時は、本人に代わって遺産分割協議に参加し、他の相続人と財産分けの話し合いをします。

その際、成年後見人には「本人の法定相続分を確保する」という義務があります。

また、遺言書がある場合でも、本人の取り分が法定相続分の半分以下だった場合「遺留分侵害額請求」を他の相続人に対して行い、本人の権利を守ることも役割です。

成年後見人の役割(2)

もう1つの役割は「身上監護」です。

本人の望む快適な生活ができるように、手続きや契約を行います。

例えば、介護が必要な状態になっても家で過ごしたい場合、訪問診療や介護サービスの契約を結んだり、家の中を安全に移動できるように手すりを付けるなどの手配をします。

あるいは、手厚い介護をしてくれる施設へ入りたい場合は、本人の希望に合う施設を探して契約をします。

いずれの場合も、定期的に訪問して本人の状態を確認し、介護事業者などが適切なサービスをしているかをチェックすることも役割です。

ただし成年後見人は、車いすを押すなど実際の介護は行いません。
また施設入所などの際、身元保証人にはなれません。

成年後見制度の利用方法

成年後見制度を利用するには、本人の住所地の家庭裁判所へ、本人、配偶者及び4親等内の親族が申立てをします。

申し立てにはたくさんの書類が必要ですが、まず用意するのは「医師の診断書」です。

医師は認知症専門医や精神科医でなくても、普段受診しているかかりつけ医で大丈夫です。

診断書に本人の判断能力が、後見・保佐・補助のどのレベル相当か、医師の意見を書く欄があります。

その医師の意見を目安に、後見・保佐・補助のどの制度で申立てをするかを決めます。

申立てには診断書の他に、申立書、本人の戸籍謄本、住民票、財産に関する資料、親族に関する資料などが必要です。

書類の書式は、家庭裁判所のホームページからダウンロードできますし、家庭裁判所の窓口でも貰えます。

書式ダウンロード(裁判所 後見ポータルサイト)

費用は、診断書代も含めて1~2万円です。

また、診断書より詳しく判断能力をチェックする「鑑定」を家庭裁判所より求められた場合には、鑑定代5~10万円が必要になりますが、鑑定を求められるのは稀です。

書類の作成や申立てが難しい場合には、司法書士へ依頼することもできます。

成年後見人には誰がなる?

申立ての際に、成年後見人になってほしい人を候補者に挙げることができますが、候補者が必ず選ばれるとは限りません。

候補者が不適任と判断された場合には、家庭裁判所が弁護士や司法書士などの専門家から選任します。

成年後見人には親族もなれますが、本人の財産を家族の財産と分けて適切に管理することが難しいなどから、親族が選任されることは少ないです。

そうなると見ず知らずの専門家に財産を預け、本人の生活を託すことになりますが、成年後見人との相性が合わず、トラブルになるケースも見受けられます。

社会福祉協議会や地域包括支援センター、士業の団体などで相談をして、適任な候補者を紹介して貰うことをお勧めします。

まとめ

成年後見制度の申立て準備から決定するまでに3か月くらい掛かります。相続が発生してから申立てをすると、その間相続手続きは進みません。

判断能力に不安な方がいる場合には早めの対策が必要ですが、成年後見制度はまだ世間に熟知されていない制度ですので、情報を集め、納得されてからご利用ください。